浅田次郎の最新長編作『母の待つ里』の映像化したドラマ。想像もつかない設定とミステリアスなストーリー。古き良き日本の原風景を映像化したじわっと温かくなるような内容でした。
なんといっても宮本信子さんのいぶし銀の演技が素晴らしかった作品でした。
カード会社のプレミアム会員だけに招待される「ふる里ツアー」なんと1泊2日で50万円の高額な料金。
どんなツアーなんでしょうと思いきや、昔話に出てくるような古民家に待っている老婆を宮本信子さんが温かく、切なく演じてます。
テーマパークのように村ぐるみで『里帰り』の設定を貫き通す村人達
カード会社のプレミアム会員に優待される登場人物は、『里帰り』という設定。1泊50万円という高額なツアー。
申し込みをすると、村ぐるみでまるで以前から知っていたかのような扱いで「お帰り」と迎えてくれる村人たち。
事前にカード会社から提供される申込者の情報を把握し、どうゆう接し方をするかの台本でもあるのでしょう。
宿泊する『実家』は参加者の名字にかけ替えられ、『母』役の宮本信子さんがまるで本当の子供が帰省したかのように、温かく出迎えてくれ、おふくろの手料理を振る舞ってくれる。
ウソだとわかっていても、お互い『設定』に乗っ取って里帰りを満喫するのだ。
村人たちもぎこちない演技ながらも、まるで本当のふる里に帰ってきたように接してくれる。
限界集落の村おこし、なのでしょうか。不思議なツアーです。どこからどこまでが嘘で本当なのかわからなくなってしまう参加者。おもしろいですよね、なんだそれ?って設定ですね。
ふる里の母の料理、昔話、風呂、方言、懐かしくて心温まる設定
宮本信子さん演じる『母』が振る舞ってくれる田舎の手料理。囲炉裏で囲む鍋や、川魚の塩焼き、手打ちの蕎麦など、食べたい!と思うようなおふくろの味がたくさん出てきます。
東北弁で、やさしく名前を呼び、いろんな話しを黙って聞いてくれる母。
身体を気遣ってくれ、お金の心配までしてくれ、あれやこれやを手をかけてくれる。
若い頃にはうっとうしかったかもしれなかった『母』のお節介が、都会でカサカサにやさぐれた心にはとても嬉しく、温かく、身に染みたのかもしれませんね。
1泊50万円もするのに、リピーター続出。利用客も現実ではなく『設定』とわかっているのに、心温まる設定には50万円以上の価値があるのでしょうね。
宮本信子さんの演技が素晴らしいんです。可愛くて、温かくて、何か訳ありな老婆が素敵すぎ。こんな『母』がいたら里帰りが楽しみでならないです、って思うような母なんです。
利用者は大物俳優の中井貴一、松島菜々子、佐々木蔵之介
3人の利用者はそれぞれの事情があり、申し込みする。
- 中井貴一さんが演じる、大手食品会社の社長の場合
仕事一筋で、家庭を持つこともなく、気がつくと60歳を超えていた。親孝行を出来なかったことを悔いてツアーに参加。すっかり『母』(宮本信子さん)に魅了され、リピーターに。
- 松嶋菜々子さんが演じる、女医の場合
認知症の母を亡くして間もなく、母の世話もできず、延命処置をしなかった後ろめたさに後悔の念を持ったままツアーに参加。こちらも『母』の魅力に取りつかれてリピーターに。
- 佐々木蔵之介さんが演じる、定年退職後に熟年離婚した男性の場合
定年退職後に、突然妻から離婚を突きつけられ、モラハラ夫だったことに気がつく。子供達も離婚に反対することもなく居場所を失っていく。ツアーに参加し、これまた『母』の魅力に取りつかれ、東京の家を売却して、村に移り住むと言い出す入れ込みよう。
3名の大御所俳優が、宮本信子さん演じる『母』の魅力に取りつかれていく様がとても興味深く描かれています。3人とも偽りの母のことを本当の母のように想う気持ちが伝わってきます。
そして『母』も、3人の再訪問を待ちわび、カード会社の利用客ということを忘れてしまう様に接してくれます。
母が語る昔話に使われている人形浄瑠璃がドラマを魅力的にしている
各回ごとに、ちよ婆が昔話をしてくれます。昔話の再現が人形浄瑠璃で映像化されています。
ちょっと怖くて、懐かしい昔話。宮本信子さんの方言訛りの語りがオドロおどろしさを強調しています。
ひとつめのお話は、ある冷たい風が吹く日に立派な着物をきた老婆が里にやってきた。見たこともない老婆だったが、突然姿を消したので村人たちが探しているとある老人が探すのをやめろと。
その老婆は少女の頃に神隠しにあった人だと。里が恋しくて帰ってきたのだろうという。
里では、冷たい風が吹く日には老婆に会うかもしれないので、早く帰りなさいと言い伝えがある。
ふたつめは、ある飢饉の年に里に現れた見知らむお侍さんとその妻と幼い娘。川岸で3人がたたずんでいると村人が腹の足しにでもと少ない食料を差し入れるが、お侍さんは物乞いではないと、口にせず妻と娘に与え、自分は川の水ばかりを飲んでいた。
数日後、お侍さんだけが息絶えていた。村人は川の傍に祠を立ててお侍さんを祭った。村をでた若者たちが食うに困らぬように願掛けする場所となった。
みっつめは、姥捨て山のはなし。
あえてわかりにくい、ストーリーが逆に魅力を感じる
最初に1・2話を観て、なんだかわけがわからず、理解できなかったのが正直な感想。
えっ?本当の母じゃないのに、泊まって、本当のふる里じゃないのに村人が気軽におかえりという。なんで?と思って、もう一度観てしまった。
あー、高額なカード会社の優待企画で『ふる里』を感じるエンターテイメントツアーね、と思いきやどこからどこまでが本当で、嘘なのかわけがわからなくなる。
でも、さすがのNHK。ふる里の情景描写がとても素晴らしい。行ったことないのに、懐かしい。見たことないのに匂いがしてきそうな夜桜。食べたことないのに食べたことあるような感じが伝わってくるだご汁…。
そして会ったことがないのに、自分の祖母のように、母のように感じる愛に溢れたちよ婆。
3・4話を観て全体像がやっとつかめて、結局数回も観なおしたこのドラマ。わかりにくいのに、そこが魅力になっているなんて不思議な展開のドラマでした。
まとめ
このブログを書いてしまうまでに、何度も観なおして、観なおす度にあーそうだったんだとか、そいうことね、なんて発見がたくさん。
ちよ婆が亡くなってからわかった、ちよ婆の本当の息子の死。東日本大震災で亡くなったというお話。
亡きがらがないまま、ちよ婆はずっと息子の帰りを待っていたんですね。毎回やってくるツアーの利用者を本当の息子、娘のように接するのは亡くなった息子を出迎えるように接していたからなんですね。
切ないお話ですが、心に残ったのは「ほんとうはあんたらの方が寂しいんではないかい」というちよ婆の言葉。
中井貴一が演じる大企業の独身社長が、この村はいいところだけど寂しくないの?とちよ婆に問いかけた時の返事でした。
都会で不自由なく暮らしていた人々は、不便でアナログな村に懐かしさと心温まる人々の交流と、何よりも日本の原風景のような大自然に魅了されていきます。
私自身も行ってみたいな、と思うような場所でした。このドラマいつか再放送されたらいいですね。とってもわかりにくい素敵なファンタジードラマでした。
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